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センスのある北海道旅行

コーラーとブレナンは外のデッキで、消えゆく岸のあかりを見つめながら、沈没船のことを話しあった。 その正体は、一九六0年代に射撃演習用として沈められた第二次世界大戦時の米軍潜水艦〈スパイクフィッシュ〉ではないかというコーラーの意見は、潜水艦発見を最初に知らされたときから変わっていなかった。
ブレナンはあくまでドイツのUボートだといいはり、「あれを見ればわかるさ。 テミュージックが聞こえてくる、ぜ」とコーラーにいった。
チャタトンが最初に海にはいり、アンカーを固定した。 彼の計画は不動だった。
ビデオ撮影し、遺常識はずれの深さ物さがしはせず、知識を得て帰還する。 彼はしばしばビームーゲルデオカメラを使って、人間の目ではとらえきれない水中の微妙なニュアンスを確実に記録した。
海からあがってからビデオを見て沈没船の構造を知り、二本めのダイビングの計画を立てる。 家へ帰ると、そのテープを何十回と見なおした。
チャタトンは、船体側面の穴から内部へはいっていってダイバーのじゃまになりそうな、裂け目から飛びだした雑然とした機械類を、あらゆる角度から慎重に撮影した。 そのあと外へ出て船体の上を泳ぎ、最初は前部魚雷搭載ハッチへ、それから艦尾の、ブレードの一枚をのぞいて砂に埋まっているスクリューのほうへ移動した。

制限時聞が尽きるとアンカー・ロープへ戻り、浮上を開始した。 また、ひとつの遺物も拾うことなくダイビングを終えることになった。
コーラーとブレナンがそのあと潜った。 即座にコーラーは、潜水艦にしては船体の幅が狭いことに気づいた。
二人は、船体上部を泳いで、後部でひらいているハッチまで行った。 その光景を見てコーラーは凍りついた。
潜水艦のハッチはふつう閉じられているものだ。 ライトで内部を照らした。
はしごが下の暗闇へとつづいていた。 「だれかがハッチをあけたにちがいない」コーラーは思った。
どっと押し寄せる海水、悲鳴をあげながらはしごを懸命に這いのぼり、脱出用のハッチをあける男たちが頭に浮かんだ。 コーラーはハッチから首を抜きだし、二人は浮上をはじめた。
コーラ!は、どんなものでもいいから、この潜水艦が〈スパイクフィッシュ〉であることを証明する、英語で書かれたなにかを見つけたかったが、そういったものはなにもなかった。 〈シーカー〉に戻り、器材をはずしてから、昼食を取るために船室で腰をおろした。
そばでチャタトンが、部屋の小さなテレビでビデオを食いいるように見つめていた。 ほかのダイパーたちは、自分たちの成果について話しあっていた。

結局だれも、なにかしら意味のあるものは発見できなかったようだつた。 正午過ぎに、チャタトンが二本めのダイビングの準備にかかった。
ブレナンは最初のダイビングのあとすこし体調が悪く、関節が痛むといって器材を片づけ、その日はダイビングをあきらめた。 コーラーだけが準備し、二本めはひとりで潜ることになった。
彼もチャタトンも一緒に潜ろうとは考えもしなかったが、二人は相前後して海に飛びこんだ。 こんどはチャタトンは、潜水艦の内部へはいるつもりだった。
まず、潜水艦のそばに横たわる、車のそばで射殺されたちんぴらを思わせる司令塔のほうへ泳いだ。 倒れた司令塔と潜水艦本体を、一本のパイプがつないでいる。
図を見たことのあるチャタトンは、そのパイプが二本の潜望鏡のうちの一本であることに気づいた。 司令塔のなかへはいってゆくとそこに、潜望鏡のいっぽうの端のレンズ部分が、古代スパルタ軍戦士のかぶとのようなかたちをした金属のハウジングにおおわれて残っていた。
チャタトンは、〈U505〉の写真で、潜望鏡のハウジング表面で製造者の銘を刻んだ金属板を見たことを思い出した。 逆戻りして発令所へ行ったのち、また戻ってきて狭い司令塔で金属板をさがしたがなにもなかった。
正体を示すものがここにあったとしても、自然に腐食したか、衝撃で破損したのだろう。 司令塔の最上部に、乗組員が出入りするハッチがあった。
ハッチはあいていた。 チャタトンは向きを変えて、司令塔から外へ出た。
いま、船体に大きくあいた穴が正面に見えていた。 そこからなかへはいって、小さな丸いハッチをひとつくぐった。
乗組員が発令所と士宮居住区や通信聴音室とを行き来するのにくぐったハッチである。 ハッチと船体のあいだの隔壁の左舷側は、破裂してもぎとられている。

非常に大きな衝撃を受けたことが、チャタトンにわかった。 たくさんの曲がったパイプや、ぎざぎざの切り口の金属や、壁や天井から不意に突きだした傷だらけの電気ケーブル常識はずれの深さを慎重に避けながら、フィンを動かさずに手の指を使って這うように前進した。
潜水艦内部の水はよどみ、ごくわずかのプランクトンがふわふわ浮いていた。 丸くカーブした天井に、アーチ状の肋材がはっきりと見えた。
チャタトンがいまいる場所はおそらく、艦長室の向かいの通信聴音室と思われた。 前進をつづけ、四角い戸口を抜けて左へ行き、つぎの戸口を右に抜けると、ひび割れたメタルの床に肘形パイプがいっぱいに並ぶ場所へ出た。
なにかが彼の直感を引きつけた。 彼はシカゴの博物館の記憶をたどり、〈U505〉の崩壊のもょうを想像して作った映画を頭のなかで再生した。
ここに戸棚があったかもしれない、と彼は思った。 だがいまは、戸棚らしきものはなかった。
左のほうへ移動して、ライトを照らした。 白いヒゲのある黒い魚がさつと逃げた。
動きを止めて、目を順応させた。 戸棚のようなかたちをしたものが、まるでかすみから出てきたかのように目の前に現われた。

まだじっとしていた。 皿のふちが、キャビネットから突きだしているように思えた。
前へ進んで、磁器に手を伸ばした。 二枚の皿がはずれた。
それを顔に近づけた。 おもては白地で、緑色の線でふちどりしてあった。
裏には、黒い字で一九四二という年代が記してあった。 その数字の上にあったのは、鷲と鈎十字、すなわちヒトラーの第三帝国のシンボルにほかならなかった。
おなじころ、コーラーは、その日二本めのダイビングを終えようとしていた。 潜降した彼は、艦内のひらいたハッチまで来たのだが、先にチャタトンがはいり、水が濁って視界が悪くなっていたので、それ以上なかへは行かなかった。
そのかわり、そばに落ちている司令塔へはいって伝声管の一部を拾ったが、なにも記されていなかった。 彼はそれを収穫袋に入れ、海面へ浮上を開始した。

チャタトンは腕時計を見て、あがる時間だと思った。 来た道をすこしずつ逆にたどり、潜水艦の外へ出て、アンカー・ロープを見いだした。
浮上する彼は喜びにあふれていた。 準備と予習の成果だ。
ネイグルに皿を一枚やろう。 船長の喜ぶ顔はなによりうれしい。
一時間近くかけて、チャタトンとコーラーは減圧しながら浮上していったが、たがいがそばにいることには気づかなかった。 水深九メートルまであがったチャタトンは、コーラーのすぐ下で停止した。
コーラーは首を傾げて、チャタトンの袋をちらつと盗み見た。 コーラーはがまんできなかった。
遺物を生きがいとする彼は、ふくらんだ収穫袋を見ると思わず近づいてしまう。 アンカー・ロープから手を離して、チャタトンとおなじ目の高さまでおりた。
まぎれもないボーンチャイナ、か、チャタトンのまわりの海を明るく照らしているように見えた。 コーラーの顔に血がのぼり、心臓は高鳴った。
チャタトンの袋に歴史がはいっている。 そのにおいを嘆ぎつけた彼は、袋に手を伸ばした。

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